本当は。 | hirari

本当は。

最近、びっくりするくらいテレビを見てて、
自分でもどうしたことか、と思う。
だけど、久しぶりに見たテレビは
前ほどつまらなくなくて、きちんと面白かった。


山田太一の「ありふれた奇跡」は、

見るたびに毎回泣いてしまう。
仲間友紀恵のへんてこな台詞まわしとか、
ちょっと野暮ったいカメラワークとか音楽とか、
気にならないことはないけれど、
そんなことを忘れてしまうくらい、
一生懸命見てしまう。


自殺未遂の経験がある男女が、ふたりして、
中年男性の飛び降り自殺を止めたのをきっかけに出会い、
惹かれあっていく。
たったそれだけの、
本当にシンプルなストーリーなんだけど。


主人公の加瀬くんが
夕方の公園でどうして自分が自殺しようとしたか
語っていて。
大学出て会社に入ったら、
落ちこぼれ社員になって、
上司に耳元に唾かけられながら、
罵倒されて、ひざまづかされて、
それでも自分はへらへらしていてそんな自分が情けなくて。
気づいたら倉庫で首を吊ろうしているのをおじいちゃんに
見つかって、病院に行ったら欝だと言われた。


私はたらたら涙を流しながら、胸をつかまれるような気持ちがした。
私たちは本当は本当に柔らかな心を持っているのに、
この世界は、私たちが柔らかな心のままで生きていくには過酷すぎるんだ、と思った。
私は過酷さに負けたくなかったから、
強くなりたいと願って、随分たくさんのことに耐えて努力した。

だから、仕事ができない、なんて努力が足りないとも思う。
そんなことが自殺の理由になるかな、とも思う。
私は強くなったぶんだけ、人に対して冷たい。

だけど、泣きながら搾り出すように語る加瀬くんを見て、
私は鬱になって会社をやめたいろんな友達のことを思い出した。
そして、耐えられない人は耐える必要がないのだ、と思った。
人のことをとてもじゃないけど責めたりできない。
だっておかしいのは世界の仕組みのほうなんだから。


私たちは自己責任で生きていかなくちゃいけないの?
仕事ができなくても就職できなくても人生の見通しが甘くても、
真面目で一生懸命であれば幸せになれるような
世の中であるべきなんじゃないのかな。


こんなドラマのような小さな奇跡が現実のものであったらいい、と思う。
私たちは、どんな私たちだって幸せに生きることが許されているのです、本当は。
こうした奇跡が全ての人に訪れて、
私たちの人生をそっと包み込んでくれますように。