強い気持ちを。 | hirari

強い気持ちを。

出会ってから8年が経つ友人と
はじめてふたりきりで飲んだ。
あまーいワインを飲みながらね。
会社の話、仕事の話、子供の話、教育の話、
恋の話、反抗期の話、それから亡くなった人のこと。

仕事がよくできて、美人で、語学が堪能で、
明るくて優しくていつも笑顔、
みんなの学級委員!
みたいな彼女は、
私にとっては眩しすぎて、
どうやって何を話したら良いのかわからない、
とずっと思っていた。

だけど、眩しいくらいの輝きのなかには
闇があって、そこに彼女たる理由があったのだということを
初めて知って、強く心をゆすぶられたのだった。


そして人間の業の深さを思って、
底のない真っ暗な穴の中に
どこまでもどこまでも落ちていくような感覚に襲われた。
人の心の複雑さ。
そしてその複雑なものと複雑なものが絡み合うと
もうこんがらかってしまってどうにもできない。
人の心より美しいものがないと同時に
人の心より恐ろしいものはないんだと思う。


憎しみとか妬みとか
そういうものと無縁の人生であったらと思うけれど、
もう知ってしまったものは仕方がないよね。
そういうしがらみのなかで
いかにそういうものに負けないで生きていくか、しかない。
彼女も言ってた。
「不幸に負けてはいけない」と。


あらゆることに負けない強い気持ちを。
そしてその強さで家族や恋人や友人を守れるくらいの強さを。
不幸から生まれるものが不幸ではないように。


8時から飲み始めたというのに、
気づいたらもう電車のない時間になっていて、
消防車のランプがくるくるまわり、サイレンがうーうーいっている
静かな街を少しだけ歩き、
夏までにまた何度も会いましょう、と言って別れた。


私は今日の夜がこんなにも静かで深いものであったことを
神様に「ありがとうございます」とお礼を言って眠りについた。