ワンデートリップ | hirari

ワンデートリップ

朝に近い夜に家に帰って、ドライブへ出かけた。
お盆だけど、朝早くの高速はすいている。
だんだんと明るくなっていく車窓を見ていたら、
目覚めていく街がビュンビュンと流れていった。

何度この道を通っただろう、と思う。
坂道をくだるときの左右に広がる住宅地と川の感じ、
左右におもちゃみたいに並ぶ密集した住宅地、
オープンカーだと息を止めなくちゃいけないオレンジのトンネル、
トンネルを越えると山あいに登場する村と工場たち、
ジェットコースターみたいに急で大きなカーブを曲がると見えてくる真っ青な海と空、
ずーっと海が見える海岸道路(本当にこの道が好き!)、
そして海水浴場がある小さな色あせたリゾート地をいくつも超えていく。

あードライブが大好きだ。

途中、漁港がある小さな街の朝市で、
金目鯛の釜飯とあら汁と握り寿司とあじの焼いたのを食べた。
ひさしぶりに血の通った、おいしいものを食べた気がする。

そして、本当に久しぶりに海水浴した。
ほとんど海に入らず、パラソルの下でずーっとお昼寝してたけど、
波の音と人の声と海の家の音楽がうるさいようで、
ちゃんとハーモニーになっていて、心地よかった。
お昼ごはんを食べたテラスからは白い砂浜と目が痛くなるくらいの鮮やかなブルーの海と空がまぶしくて、ああ、来てよかった、と思った。
人が多くてやんなるくらいだけど、まあそういうほどでもない気がしたし、
高いところから見ると、たくさんのカラフルなパラソルがキレイでかわいくて、
すごく絵になると思った。

飛び込みで泊めてもらった民宿は、おばちゃんたちがやってる小さくてふつーのおうちみたいなところ。
6畳のタタミのお部屋だけど、すみずみまで掃除してあって、
私は実はこういう民宿が大好きなのです。
夕飯は地魚たっぷりのお寿司。
どうかしらーと思ったけど、どのお魚も新鮮で、堪能。

そして、食後のコーヒーを目指してドライブしていうちに、
私たちは闇の向こうの夜の国ヘ迷い込んだのでした。
そう、そこに流れている空気は、まるで外国のバックパッカーが集まるアジアの小さな町のようだった。

インドのバラナシの、タイのバンコクの、中国の陽朔の。
小さくて優しい光だけで照らされていて、フレッシュフルーツを使ったカクテルの飲めるバーや、ベトナム料理や、ピザやさんや、ブラックジャックのゲームが楽しめるコーナー、小さな屋台が集まっていて、外国人がいっぱいいて。
正面の小さなステージではライブが行われていて、
私はすっかり心を奪われてしまった。
よく日焼けした青年がギター1本で、次々と音楽を奏でる。
私は洋楽には明るくないので、わからないものばかりだったけど、知っている曲がいくつか。
まずギターが上手すぎる!音もいいし、テクニックもすごいし、ギターというより音楽なのです。
多彩なメロディーを奏でるから、ギターの弾き語りというか、もっと複雑でふくらみがあって音楽の弾き語り、って感じ。
で、そのアレンジも素晴らしい。
歌はすっごいうまいわけじゃないけど、とても素敵な声。優しくてセクシーで温かい声。
こんなところでこんなにすごいものが聴けるなんて!という驚きとともに、
もうただただいつまでもここで彼の音楽を聴いていたい、という感じでした。

演奏が終わって、私は人見知りなので自分から話しかけたりはしないのだけど、
でも、この人はただものではない、どういう人なのか知って帰らないとゼッタイに後悔する、と思って、
人づてにお願いして、直接お話した。
なんと彼は17歳でした!
信じられない!
こんな17歳ってありえない!
外国暮らしが長くて、日本語よりも英語が得意な男の子。
話してみると、あどけない表情もあって、ああ、17歳だわーと思った。
もう所属事務所が決まっていて、東京のカフェでライブもしているという。
じゃあ、今度はそのカフェに行きますね、と約束して

闇の向こうの夜の国を後にした。

まるで物語の中に迷い込んでしまったかのような心地で、
現実の世界に戻れないんじゃないか、
と私は口に出して言わなかったけれど
実は密かにそう思っていた。
しかし、車は闇を飛び越え、
無事、というかがっかりというか、賑やかなリゾート地に戻ってきたのでした。
はてしない冒険のはじまりかと思ったのに残念。

日本にはまだまだ有名ではないけれど、
すごく素敵なところがあって、外国人のバックパッカーの方が
よく知ってるんじゃないかと思った。
ロンリープラネット日本版の日本語版を求ム!
とゆーか英語で読めよ、わたし。

写真もお土産もなくて、
私に残ったのは、
夏の海の気だるさと、心に刻み付けられたギターのリズムと、
日焼け止めを塗り忘れた太ももの付け根の日焼けの真っ赤なあと。

夏です。